学校教育文法で考える「比較表現」

― 比べているのは「大きさ」ではない ―


1.比較表現は「作り方」より先に混乱が起きる

中学校で比較表現を教えると、生徒は比較的スムーズに形を覚えます。

  • tall → taller
  • interesting → more interesting
  • the tallest

ところが、実際に文を使わせようとすると、次のような疑問が出てきます。

  • 「いつ比較級を使えばいいんですか?」
  • 「何と比べているんですか?」
  • 「比較級と最上級の違いが分かりません」

これは知識不足ではありません。
比較表現の考え方そのものが共有されていないことが原因です。


2.学校教育文法としての比較表現の位置づけ

比較表現はしばしば、

大きさを比べる文法
数が多いか少ないかを比べる文法

として説明されがちです。

しかし、これは学校教育文法としては不十分です。
英語の比較表現は、物理的な量を測るための文法ではありません


3.比較表現の本質は「基準を置いて見る」こと

比較表現の本質は、次の一点に集約できます。

比較とは、
ある基準を置いた上で、
ものの見え方や位置づけを決める操作である


比較級の例

He is taller than Tom.

この文は、身長を数値で比べているわけではありません。
トムを基準にして、そこから見たときの彼の位置を示しています。


as ~ as の例

He is as tall as Tom.

トムを基準にして
「同じくらいだ」と評価しています。
👉 基準をそろえる比較です。


最上級の例

He is the tallest in the class.

クラス全体を基準集合として、
その中での位置づけを示しています。


4.比較級は「必ず2つ」しか比べられない

学校教育文法として、必ず押さえておきたい制約があります。

比較級は、必ず2つのものしか比べられない

比較級は、

  • A を
  • B を基準にして見る

という 一対一の比較を行う文法です。


なぜ3つ以上は比べられないのか

基準が1つに定まらなくなるからです。

3つ以上を同時に比べたいとき、
英語は比較級を使いません。
代わりに 最上級 を使います。

  • 比較級:1対1の比較
  • 最上級:集団の中での位置づけ

という役割の違いがあります。


5.比較級なのに「than」が出てこない文がある理由

比較級というと
「比較級+than」を思い浮かべがちですが、
実際には次のような文も自然です。

  • He is taller.
  • This book is more interesting.

than がなくても比較が成立する理由

比較級の本質は、

基準を置いて差を示すこと

than は、
基準を明示したいときに使う語にすぎません。

It is colder today.

この文では
「昨日より」「いつもより」といった基準が
文脈から共有されています。


6.比較表現で be動詞が必要な理由

― 英語は「語順が命」 ―

比較級を学ぶ中で、生徒からよく出る疑問があります。

  • 「比較級なのに、なんで be動詞がいるんですか?」

英語の文は必ず「主語+動詞」

英語の文は、必ず

主語+動詞

という語順で成立します。


比較級は動詞ではない

He is taller than Tom.

taller は比較級ですが、
動詞ではなく形容詞です。

そのため、
文を成立させるための「動詞の席」を
be動詞が支える必要があります。

これは、現在進行形で
ing 形が動詞になれず
be動詞が必要だったのと同じ語順原理です。


7.「er / est」ではなく「more / most」を使う理由

― 音節と語の性質から考える ―

比較表現には、

  • er / est
  • more / most

の2通りの形があります。

これは単なる
「つづりの長さ」の問題ではありません。


音節(syllable)の考え方

音節とは、
発音したときの音のかたまりです。

  • tall(1音節)
  • happy(2音節)
  • interesting(4音節)

基本原則

  • 1音節 → 原則 er / est
  • 3音節以上 → 原則 more / most
  • 2音節 → 語の性質で判断

2音節でも er / est を使いやすい語

  • happy → happier
  • easy → easier

2音節でも more / most を使う語(重要)

次の接尾辞をもつ形容詞は、
2音節でも more / most を使います。

  • -ly(slowly → more slowly)
  • -ous(famous → more famous)
  • -ful(useful → more useful)
  • -less(careless → more careless)
  • -ing / -ed(interesting → more interesting)

これは例外ではなく、
英語として自然に言うための選択です。


8.授業で生徒を引き付ける比較表現の扱い方

―「比べなくても分かる比較」は使わない ―

比較表現の授業で、生徒をわくわくさせたいときに
教師が意識したい大切な視点があります。

それは、

比べなくてもすぐに分かるものを、
あえて比べないこと

です。


「分かりきった比較」は思考を生まない

A cheetah can run faster than a human.

正しい文ですが、
結果は最初から分かっています。

このような比較では、
生徒の思考はほとんど動きません。


比較表現が生きる「微妙なライン」

比較表現が本当に力を発揮するのは、
どちらとも言えそうな場面です。

  • 「飛行機と戦車は、どちらが重いと思う?」
  • 「クレヨンしんちゃんのしんちゃんのお父さんと、
     サザエさんのマスオさんは、どちらが若いと思う?」

即答できず、
理由を考えたくなる問いこそ、
比較表現に最適です。


比較表現は「考えたことを言葉にする文法」

このような問いを先に出すことで、
比較表現は

結果を覚える文法
ではなく
考えたことを表現する文法

になります。


9.授業での理解を助ける参考動画(コラム)

比較表現の基本的な考え方や
比較級・最上級の使い分けについて、
視覚的に整理された解説動画があります。

▶︎ 比較表現の基本が分かる解説動画
https://www.youtube.com/watch?v=-LEt04KhvRs

※ 本記事は動画の内容を前提にはしていません。
※ 動画の著作権は投稿者に帰属します。
※ 視聴は YouTube の公式ページをご利用ください。


10.学校教育文法としてのまとめ

比較表現は、

  • 大きさを比べる文法ではない
  • 基準を置いて見方を決める文法である

という視点で整理できます。

  • 比較級:2つの比較
  • 最上級:集団での位置づけ
  • than:基準を明示したいとき
  • be動詞:文を成立させる中心
  • er / more:音の自然さによる選択

11.まとめ:比較表現は「考え方の文法」である

学校教育文法として大切なのは、

何を比べているかではなく、
どのように見ているか

を共有することです。

この視点があってこそ、
比較表現は暗記ではなく、
使える文法になります。


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