受動態は「受け身」ではない

― 主語の見方を変える文法、そして be動詞が必要な理由―

中学校で受動態を教えるとき、
多くの場合、こんな説明から始まります。

be動詞+過去分詞
「〜される文」

形としては分かりやすく、
生徒もすぐに受動態を作れるようになります。

けれど、授業を重ねるうちに、
こんな違和感を覚えたことはないでしょうか。

  • 文の形は合っているのに、どこか不自然
  • 生徒が「とりあえず受動態」を使い始める
  • いつ受動態を使えばいいのか、説明できない

私自身、長い間この違和感を抱えてきました。

その感覚を、理論的に言語化してくれたのが、
野口正樹氏の論文
「受動態は伝家の宝刀」です1343070x_22_1_Masaki Noguchi。

この記事では、
その論文の視点に触れながら、
学校教育文法としての受動態の捉え方を整理してみます。


「形は合っているのに変な文」が生まれる理由

生徒がよく書く文に、こんなものがあります。

  • English is spoken by Saburo.
  • This book was read by her.

文法的に完全な誤りではありません。
しかし、英語としてはかなり不自然です。

なぜでしょうか。

それは、生徒が
「受動態を使う理由」ではなく
「受動態の形」だけを学んでいるから
です。


受動態は「言い換え」ではない

学校文法では、
能動文と受動文は「言い換えられる」と説明されがちです。

  • Ken broke the window.
  • The window was broken.

たしかに、出来事は同じです。
しかし、この2文は
同じ視点で書かれた文ではありません。

論文でも指摘されているように、
受動態を「能動態の言い換え」と捉えると、
受動態の本質が見えなくなります1343070x_22_1_Masaki Noguchi。

大切なのは、
「何が起きたか」ではなく、
「何を主語として見たいか」 です。


受動態は「主語の見方」を変える文法

英語では、
文の最初(主語)に来るものが、
その文の話題の中心になります。

  • Ken broke the window.
    → Ken の行動に注目した文
  • The window was broken.
    → 窓の状態に注目した文

受動態とは、
「誰がやったか」を隠す文ではありません。

話題にしたいものを主語に置くための文法
だと考えると、理解しやすくなります。


受動態が「変化」を感じさせる理由

受動態が自然に使われる文には、
共通点があります。

それは、
主語に何らかの変化や影響が生じている
という点です。

  • The window was broken.
    → 割れていない状態 → 割れた状態
  • The classroom was cleaned.
    → 汚れている状態 → きれいな状態

一方で、

  • Two sisters are had by Hiroshi.

が不自然なのは、
主語に何の変化も起きていないからです。


過去分詞は「過去」ではない

ここで、受動態理解のカギとなる
過去分詞の見方を確認します。

受動態を
「be動詞+過去分詞」
と教えると、生徒はこう思いがちです。

過去分詞だから、過去のことを表している

でも、これは正確ではありません。

過去分詞が表しているのは、
「起きた結果としての状態」
です。

  • broken → 割れた状態
  • cleaned → きれいになった状態
  • loved → 愛されている状態

受動態が「変化」を感じさせるのは、
この 状態を表す過去分詞 が使われているからです。


なぜ受動態には be動詞が必要なのか

ここで、もう一つ大切な疑問に答えます。

なぜ受動態には、必ず be動詞が必要なのか?

答えは、とてもシンプルです。


英語は「語順が命」の言語

英語の基本は、

S(主語)+ V(動詞)

です。

そして、
👉 一つの文には、動詞は一つ
という大原則があります。


過去分詞は「動詞」ではない

受動態の文を見てみます。

  • The window was broken.

一見すると、
broken が動詞のように見えます。

しかし、ここが重要です。

過去分詞そのものは、動詞ではありません。

過去分詞は、
動作を起こす言葉ではなく、
主語の状態を説明する語です。


文を成立させるための be動詞

英語の文には、
必ず「文の軸となる動詞」が必要です。

過去分詞は動詞になれない。
だから、その役割を担うのが be動詞 です。

  • be動詞
    → 主語と状態を結びつける動詞
    → 「〜である」「〜の状態にある」

だから、

  • The window broken.
  • The window was broken.

となります。


受動態の正体を語順で整理する

受動態の構造を、
語順の視点で見るとこうなります。

  • 主語:The window
  • 動詞:was
  • 状態:broken

つまり、

主語 + be動詞(文の動詞)
+ 過去分詞(状態)

受動態とは、
be動詞文の一種なのです。


生徒に伝えている一言

私は、受動態を教えるとき、
必ずこう伝えています。

英語は語順が命。
文には必ず動詞がいる。

過去分詞は動詞じゃない。
状態を表しているだけ。

だから、
受動態には be動詞が必要なんだ。

この一言で、
受動態は「暗記する形」から
「納得して使う文法」に変わります。


おわりに

受動態は、英語の中で頻繁に使う文法ではありません。
論文でも「伝家の宝刀」と表現されているように、
必要なときにだけ使う、特別な文法です1343070x_22_1_Masaki Noguchi。

だからこそ、
形よりも先に、見方をそろえる。

  • 主語の見方
  • 変化という発想
  • 過去分詞は状態
  • be動詞が文を支えている

この一本の筋が通ったとき、
受動態は、生徒にとっても教師にとっても
「分かる文法」になります。

参考文献

野口 正樹(2017)
「受動態は伝家の宝刀 ― The Passive Voice: Don’t use it until you have to ―」
『沖縄国際大学紀要(英語教育研究)』第22号,pp.1–31. 1343070x_22_1_Masaki Noguchi