道徳科 納得と発見のある授業

―「深い学び」をつくる内容項目のポイント―

著者:堀 健太
出版社:日本文教出版
対象:小学校・中学校 道徳科


この本を一言で言うと

この本は、
「道徳の授業で、何をもって“深い学び”と言えるのか」
を、現場教師の目線で整理してくれる一冊です。

道徳科では、

  • 納得
  • 発見
  • 深い学び

といった言葉が頻繁に使われますが、
それらが授業の中でどのように生まれるのかは、曖昧なまま進んでしまいがちです。

本書は、その曖昧さを
内容項目ごと・授業場面ごとに具体化し、
教師が授業を振り返るための確かな視点を与えてくれます。


本書の大きな特徴

この本の最大の特徴は、
**「何をするか」以上に、「何をしてはいけないか」**が明確に示されている点です。

特に印象に残ったのは、次の2点です。

  • 分かり切ったことを言わせたり、書かせたりする授業をしない
  • 登場人物の心情理解に偏る授業にしない

これらは、道徳の授業が
知らず知らずのうちに浅くなってしまう典型的な落とし穴です。


この図が示している「道徳授業の核心」

本書に示されている図は、
道徳の学びを「外側」と「中心」に分けて捉える視点を示しています。


見えやすい外側:行為・行動・状況理解

図の外側には、

  • 教材の状況
  • 登場人物の行為・行動
  • その場面で何が起こっているか

といった、比較的扱いやすい要素が配置されています。

多くの道徳授業は、
まずここを丁寧に確認するところから始まります。

これは自然な流れであり、決して誤りではありません。


陥りやすい落とし穴:心情理解で止まる授業

行為や状況を追ったあと、
授業はしばしば「登場人物の心情理解」に進みます。

  • かわいそう
  • つらかったと思う
  • 勇気があった

こうした発言が出ると、
教師としては「話し合いが深まった」と感じやすくなります。

しかし本書は、
心情理解そのものが目的になってしまう授業に、明確な注意を促しています。

主人公を理解したことと、
生徒自身の価値観が揺れたり変わったりすることは、
決してイコールではないからです。


本当に育てたい中心:道徳性(心の内面)

図の中心に置かれているのが、
道徳性=心の内面です。

ここで問われているのは、

  • 自分の考えはどこで揺れたのか
  • 当たり前だと思っていたことを、どう捉え直したか
  • これからの生き方に、どうつながりそうか

といった、生徒自身の内面的な変容です。

重要なのは、
「正しい価値を言えるようになること」ではありません。

  • 迷い
  • 葛藤し
  • 他者の考えに触れながら

自分なりに価値を再構成していく過程こそが、
道徳科で育てたい学びだと、本書は示しています。


「分かり切ったことを言わせる授業」をしない

道徳の授業では、

  • 思いやりが大切
  • ルールは守るべき
  • 相手の気持ちを考えることが重要

といった、最初から分かっている言葉
着地してしまうことがあります。

しかし、これらは
生徒がすでに「知っている正解」です。

それを言わせたり、書かせたりするだけでは、
思考はほとんど動いていません。

本書が重視しているのは、

  • 迷う
  • 立ち止まる
  • 「本当にそうだろうか」と考え直す

といった、思考が動く瞬間
教師がどう設計するか、という視点です。


「登場人物の理解」に偏らない

もう一つ重要なのは、
登場人物の心情理解に授業を閉じないことです。

主人公を理解することは大切ですが、
それがゴールになってしまうと、

  • 自分ならどう考えるか
  • 現実の自分の行動とどうつながるか

といった問いが置き去りになります。

本書が示しているのは、

主人公をどう思ったか
ではなく
自分の考えがどう揺さぶられたか

に焦点を当てる授業設計です。


この本が教師に与えてくれるもの

この本は、

  • 発問集でもなく
  • 指導案集でもなく

道徳授業を見るための「視点」を与えてくれる一冊です。

授業の途中で、

  • 今、自分は外側を扱っているのか
  • 中心(道徳性)に近づいているのか

を点検するための、
思考の地図として機能します。


こんな先生におすすめ

  • 道徳の授業が浅く感じる
  • 心情理解で終わってしまうことに違和感がある
  • 「深い学び」と言われても掴みきれない
  • 内容項目ごとの指導の違いを整理したい
  • 道徳の授業についてしっかり学びたい

特に、
道徳を「ちゃんと授業として成立させたい」
と考えている先生に、強くおすすめします。


Learn Nova Praxis 的まとめ

道徳科は、
正解がないからこそ、
教師の問いと待ち方が学びの深さを左右する教科です。

本書は、その不安を
「納得」と「発見」という視点で、
非常に実践的に支えてくれる一冊だと感じました。


参考文献

  • 堀 健太(2023)
    『道徳科 納得と発見のある授業 ―「深い学び」をつくる内容項目のポイント―』
    日本文教出版