― 行為・心情・価値が混線するとき、道徳は止まる ―
※本記事は、学習指導要領や教科書を解説・要約するものではありません。
現場教師の立場から、道徳の授業が「どこで深まり、どこで止まるのか」を整理した個人の考察です。
目次
氷山モデルは「理解の図」ではなく「問いの地図」である
道徳の授業でよく用いられる氷山モデルは、
一般に「道徳的理解の深まり」を説明する図として紹介されます。
- 行為
- 心情
- 価値
という層構造は、
生徒の理解を整理するための枠組みとして、とても分かりやすいものです。
しかし、本連載ではこの氷山モデルを、
別の角度から捉え直したいと考えます。
それは、
氷山モデルを
「問いをどこに投げているかを示す地図」
として見る、という視点です。
氷山の上で完結してしまう問いの特徴
氷山の上、つまり水面付近に位置するのは、
- 何をしたのか
- なぜそうしたのか
- どんな気持ちだったのか
といった問いです。
これらは、
- 生徒にとって答えやすく
- 話し合いが成立しやすく
- 授業として整いやすい
という特徴をもっています。
だからこそ、
多くの授業は無意識のうちに、
この層を何度も行き来する構成になりがちです。
問い自体は、決して悪くありません。
むしろ「良い問い」に見えることも多い。
しかし、
この層だけで授業を終えたとき、
思考は深まらない
という問題が生じます。
行為・心情・価値が混線すると、問いは迷子になる
多くの道徳授業で起きているのは、
問いそのものが浅いというより、
問いの向いている層が混線している状態です。
たとえば、
- 行為を問うつもりで出した問いが
- 心情の答えとして回収され
- 最後は価値の確認で終わる
という流れです。
教師の中で、
- 今、何を問いたいのか
- どの層に触れたいのか
が整理されていないと、
問いは必ず水面上に引き戻されます。
結果として、
「結局、思いやりが大切だよね」
という、
分かり切った答えに着地してしまうのです。
氷山の一番下にあるのは「答え」ではなく「揺れ」である
氷山の最下層にあるのは、
- 正解
- 望ましい結論
ではありません。
そこにあるのは、
- 自分の考えが揺れる感覚
- これまで当たり前だと思っていた価値への違和感
- うまく言葉にならない迷い
です。
つまり、
氷山の一番下を目指す問いは、
最初から「まとめにくい」問いです。
だからこそ、
- 教師は不安になる
- 授業が散らかるように感じる
- つい、心情理解に戻したくなる
ということが起こります。
しかし、
この揺れが生まれない限り、
価値の再構成は起こりません。
すべての道徳授業は、氷山の一番下を目指す
ここで、本連載の立場をはっきりさせておきます。
道徳の授業は、
どの回であっても、必ず氷山の一番下を目指すべきだ
と考えます。
- 心情理解で止めない
- 行為の是非で終わらせない
- 「考えさせた感」で満足しない
氷山の下にある、
道徳的価値に対する
考え方・感じ方・生き方
にまで、
生徒の思考を運ぶことを目指す。
そこに「到達したかどうか」が
明確に見えなくても構いません。
目指す地点を下げないこと
それ自体が、道徳授業の質を決めると考えます。
氷山モデルは、教師の問いを点検するための思考ツールである
道徳の授業が浅く終わってしまうとき、
問いの数や工夫そのものが影響している場合もあります。
しかし多くの場合、
問いが、氷山のどの層を回っているのかを、
教師自身が見失っていることにあります。
問いの数を増やしたり、
表現を工夫したりすること自体は、
決して無意味ではありません。
ただし、
問いが向かう層を見誤ったままでは、
どれだけ工夫しても、
思考は水面上を回り続けてしまいます。
氷山モデルは、
自分は今、
どの層に向かって問いを投げているのか
を、
教師自身が問い返すための思考ツールです。
問いを出す前に、
あるいは授業の途中で、
「この問いは、
氷山のどこを目指しているのだろうか」
と立ち止まれるかどうか。
そこに、
道徳授業の分岐点があります。
第3回のまとめ
- 授業が浅くなるのは、問いが弱いからではない
- 問いが、氷山のどの層を向いているかが整理されていないからである
- 氷山の一番下にあるのは、答えではなく価値の揺れである
- すべての道徳授業は、必ずそこを目指すべきである
氷山モデルは、
理解のための図ではなく、
問いを配置するための地図なのです。
次回予告
次回は、
この氷山モデルを「発問の診断軸」として使います。
- 氷山の上で止まってしまう問い
- 氷山の下に思考を導く問い
を、具体的な発問例で対比しながら、
なぜその問いは深まりを生み、
なぜ別の問いは止まってしまうのか
を整理します。
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