📘 この記事は 日本語と英語はどう違うのか ― 母語干渉から考える英文法指導の地図【完全ガイド】 の一部です。日本語と英語の違いの全体像は、まとめガイドからご覧いただけます。

日本語と英語の時間の捉え方

はじめに

英語を学び始めた生徒がよく言います。

「なんで過去形にしないといけないんですか?」

「昨日って書いてあるんだから分かるじゃないですか。」

確かにその通りです。

例えば日本語なら、

  • 昨日、学校へ行く予定だった。
  • 明日、学校へ行く。
  • 今、学校へ行く。

のように、

時間を表す言葉があれば十分意味が通じます。

しかし英語では、

  • I go to school.
  • I went to school.
  • I will go to school.

のように、

動詞の形そのものを変える必要があります。

なぜ英語はこれほど時間にこだわるのでしょうか。

今回のテーマは、

日本語は時間を補う言語
英語は時間を明示する言語

という視点から考えてみたいと思います。


私たちは時間をあまり気にせず話している

例えば職員室でこんな会話をします。

「明日の会議出る?」

「出るよ。」

「何時に来る?」

「2時くらい。」

誰も

「私は明日の会議に出ます。」

とは言いません。

また、

  • 明日行く。
  • 来週会う。
  • 夏休みに旅行する。

という表現も自然に使っています。

未来の話なのに、

動詞の形は特別には変わっていません。


日本語にも時制はある

ここで誤解してはいけないことがあります。

時々、

「日本語には時制がない」

という説明を見かけます。

しかし、それは正確ではありません。

例えば、

  • 行く
  • 行った

は明らかに違います。


  • 食べる
  • 食べた

も違います。


つまり日本語にも、

過去と非過去の区別があります。

日本語に時制がないのではなく、

英語とは時制の捉え方が違うのです。


日本語は「過去」と「非過去」の言語

英語では、

  • past
  • present
  • future

を区別する傾向があります。

一方で日本語は、

  • 過去
  • 非過去

を区別する傾向があります。


例えば、

  • 今行く。
  • 明日行く。

どちらも「行く」です。

現在も未来も、

同じ形で表現できます。


つまり日本語には、

英語のような未来形がありません。


日本語と英語の時制比較

ここで一度整理してみましょう。

観点日本語英語
基本的な区別過去 / 非過去過去 / 現在 / 未来
現在と未来同じ形を使う区別する傾向が強い
未来形ないwill などを使う
時間の表し方文脈や副詞も重要動詞の形が重要
時間感覚過去か、それ以外かいつ起きたかを重視
学習上の特徴比較的シンプル時制体系が複雑

英語は時間を動詞で示す

英語では、

時間を動詞の形で示します。

例えば、

  • I play soccer.
  • I played soccer.

では、

動詞の形が変わっています。


だから英語では、

「昨日」という言葉があっても、

過去形にする必要があります。


❌ Yesterday I play soccer.

⭕ Yesterday I played soccer.


日本人の生徒からすると、

「昨日って書いてあるんだから分かるじゃないか」

と思うかもしれません。

しかし英語話者にとっては、

時間を示さない方が不自然なのです。


第8回とのつながり

前回、

私たちは

英語は主語を明示する言語

という話をしました。


日本語は、

主語を文脈で補います。


英語は、

主語を明示します。


実は時間も同じです。


日本語は、

時間を文脈で補います。


英語は、

時間を動詞で明示します。


つまり英語は、

「誰が」「いつ」を明確にしたい言語

なのです。


現在形は「今」ではない

生徒がよく誤解することがあります。

それは、

現在形=今

ではない

ということです。


例えば、

I play soccer.

は、

「今サッカーをしている」

ではありません。


意味としては、

  • 私はサッカーをする。
  • 私はサッカーをする人間だ。

に近くなります。


現在形は、

  • 習慣
  • 事実
  • 普遍的真理

を表します。


例えば、

  • I play soccer every day.
  • The sun rises in the east.

です。


つまり現在形は、

時間の一点ではなく、

その人や物の性質を表しているのです。


「今」を表したいなら現在進行形

では、

今まさに行われていることはどう表すのでしょうか。


そこで登場するのが、

現在進行形です。


  • I am playing soccer.

これは、

「今プレー中」

を意味します。


英語は、

現在形だけでは足りないので、

進行形という仕組みを作りました。


日本語の「〜ている」は英語より広い

ここも興味深い違いです。

例えば、

  • 結婚している
  • 座っている

です。


英語では、

  • be married
  • be seated

のようになります。


日本語の

「〜ている」

は、

進行だけでなく状態も表せます。


つまり日本語は、

進行と状態を同じ表現で扱うことができるのです。


現在完了形が難しい理由

多くの日本人が苦手とする文法があります。

それが現在完了形です。


  • I have lived here for ten years.
  • I have been to Kyoto.
  • I have just finished my homework.

なぜ難しいのでしょうか。

それは、

日本語には完全に一致する仕組みがないからです。


現在完了形は、

過去と現在をつなぐ表現

です。


例えば、

I have lived here for ten years.

は、

「10年間住んだ」

ではありません。


大切なのは、

今も住んでいる

ことです。


英語は、

過去と現在の関係まで明示しようとします。


英語は時間の位置を気にする

ここまでをまとめると、

英語は単に

過去

現在

未来

を区別しているわけではありません。


英語は、

その出来事が今とどう関係しているのか

を気にしています。


だから、

  • 現在形
  • 過去形
  • 現在進行形
  • 現在完了形

が存在するのです。


日本語は時間を補う、英語は時間を明示する

ここまで見てきたように、

日本語は、

時間を文脈や副詞で補う言語

です。


一方英語は、

動詞の形によって時間を明示する言語

です。


だから英語では、

動詞の形がとても重要になります。


授業で使える一言

私は生徒に、

こんな風に説明したいと思っています。


日本語は「いつか」を周りの言葉で伝える。

英語は「いつか」を動詞で伝える。


すると、

過去形や現在完了形の必要性が少し見えてきます。


まとめ

日本語にも時制はあります。

しかし日本語は、

過去と非過去

を区別する傾向があります。


一方英語は、

過去・現在・未来

をより細かく意識し、

さらに

その出来事が今とどう関係しているのか

まで表そうとします。


本シリーズで見てきたように、

英語は主語を明示する言語です。

そして今回学んだように、

英語は時間も明示する言語です。


だから英語学習とは、

単に動詞の形を覚えることではありません。

日本語と英語の時間の見方の違いを学ぶこと

でもあるのです。


次回予告

第10回

日本語に未来形がないのはなぜか
― 日本人は未来をどう捉えているのか ―

未来はまだ起こっていない出来事です。

それにもかかわらず、日本語はなぜ未来形を持たないのでしょうか。

日本語と英語の未来表現を比較しながら考えていきます。

📚 無料会員のご案内

LearnNova Praxis の無料会員になると、
定期テスト用のリスニング教材(音声・問題用紙・スクリプト・解答の4点セット)を
学年別にダウンロードできます。新着記事のお知らせメールもお届けします。

リスニング教材ライブラリを見る

ABOUT ME
Tom先生
中学校の英語教師(教職7年)。専門は第二言語習得論(SLA)。英検準1級・TOEIC 830点、アメリカ留学経験あり。「現場の教師が、明日の授業に使える知」をモットーに、授業づくり・評価・英文法指導・SLA理論の実践を発信しています。