📘 この記事は 日本語と英語はどう違うのか ― 母語干渉から考える英文法指導の地図【完全ガイド】 の一部です。日本語と英語の違いの全体像は、まとめガイドからご覧いただけます。

冠詞・単数形・複数形から見える英語の世界

はじめに

英語を教えていると、生徒からよくこんな質問を受けます。

「なんで a が必要なんですか?」

「なんで dog じゃなくて dogs にするんですか?」

「なんで the をつけたりつけなかったりするんですか?」

英語教師にとっては当たり前に見えることでも、生徒にとっては大きな疑問です。

そして実は、この疑問はとても本質的です。

なぜなら、

  • 冠詞
  • 単数形
  • 複数形

は、英語という言語の考え方そのものを表しているからです。

今回のテーマは、

日本語は数や共有を文脈で補う言語
英語は数や共有を明示する言語

という視点から考えてみたいと思います。


日本語は「犬」で通じる

例えば、

「昨日、公園で犬を見たよ。」

という文を考えてみましょう。

私たちは自然に理解できます。

しかし実は、

  • 一匹なのか
  • 二匹以上なのか
  • 初めて出てきた犬なのか
  • お互いが知っている犬なのか

は分かりません。

それでも困りません。

文脈から補うからです。


英語はまず数を確認する

英語では、

「犬を見た」

と言うだけでも、

まず考えなければならないことがあります。

① 一匹なのか

② 複数なのか

③ 相手が知っている犬なのか

④ 初めて話題に出る犬なのか

例えば、

I saw a dog.

なら、

「ある一匹の犬」

です。

I saw dogs.

なら、

「犬たち」

です。

英語話者は、

まず数を確認します。


なぜ複数形があるのか

日本語では、

  • 先生
  • りんご

だけで成立します。

しかし英語では、

  • dog
  • dogs
  • book
  • books
  • teacher
  • teachers

のように区別します。

つまり英語は、

数を文法で表そうとする言語

なのです。


日本語にも数の概念はある

もちろん、

日本語に数の概念がないわけではありません。

  • 一匹の犬
  • 三匹の犬
  • 一冊の本
  • 五冊の本

と言えます。

ただし、

必要なときだけ言います。

英語は違います。

基本的に、

単数か複数かを示さなければなりません。


冠詞の正体

多くの生徒は、

a

the

を難しい文法だと思っています。

しかし本質はもっとシンプルです。


a

初登場


the

共有済み


なのです。


a は「どれでもいい一つ」

I saw a dog.

ここでの a dog は、

「ある一匹の犬」です。

まだ聞き手はその犬を知りません。

だから a を使います。


the は「その犬」

The dog was very cute.

今度は、

先ほど話した犬です。

話し手と聞き手の間で共有されています。

だから the になります。


日本語には冠詞がない

日本語なら、

犬を見た。

かわいかった。

だけで成立します。

私たちは自然に、

同じ犬のことだと理解します。

英語はそれを文法で示します。


冠詞と複数形は同じ話

実は、

冠詞と複数形は別々の文法ではありません。

どちらも、

名詞をどのように捉えているか

を表しています。

表現英語話者の感覚
a dog一匹の犬
the dogその犬
dogs犬たち全体
the dogsその犬たち

英語は、

数と共有を常に確認しているのです。


コラム:英語はどこから来た言語なのか

ここで少し視点を広げてみましょう。

英語を教えていると、

「なぜ英語はこんなに単数形や複数形にこだわるのだろう」

と思うことがあります。

実はその理由の一つは、

英語が属する語族にあります。


英語はインド・ヨーロッパ語族の仲間

英語は、

インド・ヨーロッパ語族

という大きな言語グループに属しています。

仲間には、

  • ドイツ語
  • オランダ語
  • フランス語
  • スペイン語
  • イタリア語
  • ロシア語
  • ギリシャ語

などがあります。

一方、

日本語はこのグループには属しません。


インド・ヨーロッパ語族の特徴

インド・ヨーロッパ語族の多くは、

名詞の情報を細かく示す

という特徴を持っています。

例えば、

  • 単数
  • 複数

を区別します。

言語によっては、

  • 男性
  • 女性
  • 中性

まで区別します。


英語はゲルマン語派

その中でも英語は、

ゲルマン語派

に属しています。

仲間には、

  • ドイツ語
  • オランダ語
  • スウェーデン語
  • ノルウェー語
  • デンマーク語

などがあります。


ゲルマン語派の特徴

ゲルマン語派の言語は、

古くから

名詞の数を区別する

ことを重視してきました。

また、

動詞の変化も比較的豊富でした。

そのため、

  • 誰が
  • いつ
  • いくつ

を明示する文化が発達しました。


日本語との違い

日本語は、

  • 主語を省略する
  • 数を省略する
  • 冠詞がない

という特徴があります。

しかし英語は、

インド・ヨーロッパ語族、

そしてゲルマン語派の歴史の中で、

誰が
いつ
いくつ
どれなのか

を示す仕組みを発達させてきました。

だから冠詞や複数形は、

単なるルールではなく、

英語という言語の歴史そのものなのです。


英語は共有を大切にする

例えば、

The sun rises in the east.

という文があります。

なぜ the sun なのでしょうか。

それは、

世界中の人が知っている太陽だからです。

唯一の存在であり、

共有された存在だからです。


第8回・第9回とのつながり

第8回では、

英語は主語を明示する言語

という話をしました。

第9回では、

英語は時間を明示する言語

という話をしました。

そして今回見てきたように、

英語は数や共有も明示する言語です。

つまり英語は、

誰が
いつ
いくつ
どれなのか

を明確にしたい言語なのです。


日本語は補う、英語は明示する

ここまでのシリーズを振り返ると、

日本語は、

  • 主語を補う
  • 時間を補う
  • 数を補う

言語です。

一方英語は、

  • 主語を明示する
  • 時間を明示する
  • 数を明示する

言語です。

冠詞も複数形も、

その考え方の延長線上にあります。


授業で使える一言

日本語は「犬」で済む。
英語は「どの犬なのか」まで言いたい。

あるいは、

日本語は相手が分かると思っている。
英語は分かるように伝えようとする。


まとめ

英語の

  • a
  • an
  • the
  • 単数形
  • 複数形

は別々の文法ではありません。

どれも、

数と共有を明示する仕組み

です。

英語は、

主語だけでなく、

時間だけでなく、

名詞についても情報を明示しようとします。

だから冠詞と複数形が必要なのです。

本シリーズで見てきたように、

英語は語順が命

です。

そして、

主語を明示し、時間を明示し、数と共有も明示する

言語です。

英語とは、

相手に分かるように情報を整理して伝える言語

なのかもしれません。

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ABOUT ME
Tom先生
中学校の英語教師(教職7年)。専門は第二言語習得論(SLA)。英検準1級・TOEIC 830点、アメリカ留学経験あり。「現場の教師が、明日の授業に使える知」をモットーに、授業づくり・評価・英文法指導・SLA理論の実践を発信しています。